Vol.20

ロサンゼルス早朝。
今回、軍曹の立てた作戦は、マーキングした店舗・業態をどれだけ駆逐できるかという、
“チェック店舗掃討大作戦”である。虱潰しにローラー作戦で視察するのが目的だ。
言い換えれば、限られた時間の中でどれだけ食べれるか、が勝敗を決する過酷なミッション・インポッシブルだ。そんなわけで軍曹の前では“睡眠”という言葉はご法度。「起床—っっっ!」の号令のもと、おやじーずの長〜い一日が始まった。

宇宙の果てまで青いロサンゼルスの空の下、レンタルした巨大ラウンドクルザー“リンカーン・ナビゲーター”を、ブイブイいわせながらガンガンと疾走させる。乾いたカルフォルニアの朝の風が時差を吹き飛ばす。まるで現地のプエルトリコ人ドライバーのようなハンドルさばきで、軍曹は目的地から目的地へと移動する。

“le Pain Quotidien”は、ベルギー発の有機ベーカリーだ。パン 系の“スタバ”とも言われていて、世界各国に進出しているのですが、日本にはまだない。きっとどこかの大企業が銭にものいわせてロイヤルティー契約するんじゃないでしょうか?木目の長いテーブルとオーガニックなパン。卓上のたくさんのコンフィチュールをシェアして食べるスタイルが面白くて、ずーっと気になっていた。とってもナチュラルな店づくりと、チェーン店舗化しているのにその地域になじんでいる、いい意味での“ゆるさ”が魅力だ。実は今回のカルフォルニアの視察で一番心に残ったキーワードが、“地域密着”“コミュニティー”“ゆるさ”であった。“le Pain Quotidien”で朝食。カルフォルニアのサラダは、だいたいオーガニックでどこでも大変美味い。しかし、もう一つ秘密があった。あとで聞いた話だが、こちらのサラダは収穫されてすぐに、4℃の冷蔵庫に入れられ、4℃の冷蔵車で産地から店舗まで輸送され、4℃の冷蔵庫にて管理することが定められているらしい。ちなみに冷蔵ショーケースに入っているテイクアウトのサンドイッチも、同じ4℃で管理されているため至極まずい。なので、少し温めると格段にうまくなるとのこと。機会あらば、お試しください。

続いては、今回の視察のきっかけになった“JOAN'S on THIRD”に向かった。
いわゆる“成城石井”や“DEAN&DELUCA”のようなデリ・マーケットに、イートインスペース・カフェを併設した業態だ。ところが、何かが根本的に違う・異質なのです。“カルフォルニア的T_シャツ感覚”とでもいいましょうか、自分たちにフィットする“ゆる〜いおしゃれ感”といいましょうか、非常に心地がよいのです。
路面に面した店舗の入口の木陰には、マスコットの牛のオブジェ達が出迎えくれる。
オープンテラスの席では、地元の人たちが思い思いの時を過ごす。小さな娘とジョギング姿の父親。チャコールのプードルと女の子。品のいいサングラスをかけたいかにもビバリーヒルズの住民といった風の女性。店内に入ると、古いモザイクタイルの床と配管がむき出しになった天井からは、やる気なく天井からシャンデリアとモロッコ風のランプが垂れ下がる。ヨーロッパの肉屋の跡のようなレトロな空気感がカッコイイ。
コの字型のカウンターの左側に、パン達とうまそうな作りたてのお惣菜が並ぶ。正面にはずらりとチーズとハムやサラミが並び、右側にスィーツ、調味料・冷凍冷蔵商品がぎっちりと詰め込まれる。そう広くない店内に所狭しと並べられて商品の合間には、気の利いた小さな黒板に商品の説明が書かれ、豚や牛のアンティークなオブジェがこの店の主のセンスの良さを証明する。
店内には飲食するテーブルが商品ラックを縫うように置かれ、テラス席同様ご近所さんたちが自宅の延長の様に寛いでいた。


賞味期限とか関係なしに、今作ったばかりの生キャラメルを、パラフィン紙で包んで並べるいい加減さを、もしかしたらアットホームというのかもしれない。日本の食品販売における衛生基準的な物つくりでは測れない、あったかな感性が店を包み込んでいた。


“地域密着”“コミュニティー”“ゆるさ”。
実は、自分たちのアイデンティティーの再発見なのかもしれない。
“JOAN'S on THIRD”のテラスで飲むレモネードの酸っぱさは、拡大するために多くの企業が捨て去らざる得なかった“大切な何か”なのかもしれない。