KK:僕も音楽を一曲まるごとかけるのはナンセンスだと感じていました。それで、いくつもあるカセットテープを、「これかけてからこれ」とかやってました。まるでサントラですよ。常連客が3時間いると、「次は何をかけるんだ?」という目で見てるんですよ。そこで勝負が始まるわけです。次はどんなサプライズが待っているんだ、みたいな。選曲家の桑原茂一(※7)さんが来店した時も、ふだん絶対かけないボサ・ノヴァをずっとかけてやりました(笑)。
TT:僕もここのラインナップはいつも驚かさてました。そういえば、「冒険者たち」(※8)が何度もかかってたよね。その度に一人で盛り上がっていた。その当時、他の店で「冒険者たち」とかかかることはまずなかったから。「冒険者たち」は僕のツボで、子供の頃ビデオとかまだなかった時代だから、テレビの洋画劇場で放映される度に正座して見入るくらい憧れていて、人生はレティシアを探す目的で生きていくしかないなって思ってましたから。
KK:ホントに街にありましたよ。レティシアっていう店が…。
TT:そういう名前をつけられるとなんか腹立って逆に行きづらい(笑)。
KK: ハハハ。そんなことから「冒険者たち」のあとに、10CCの「アイム・ノット・イン・ラブ」、その後にサティの「ジムノペディ」をかける。「お前は何があって、それをかけるのか」って怒りながら問い詰める人とか結構いましたよ。
TT:僕にとっては実はそれ完全に必然的なラインナップで、本当にそんな順番で家で聴いてたんですよ、正座して。それがここでかかるんだから、自分がどこにいるのかわからなくなって、怖くなりましたよ、なんだ?ここはって(笑)。
KK:でも、そういうことで声かける人は、寺門さんみたいな自分の世界を持った一癖ある人が多かった(笑)。
TT: 当時、内向的だった僕が「これ『冒険者たち』ですよね?」って、思わず声をかけてしまったくらいだもん(笑)。ところで、ここに飾ってある大野(純一)(※9)さんの写真に惚れこんで、彼に逢いに行って、僕の作品の写真を撮ってもらいましたよ。彼は今どうしているの?
KK:パリに行ってから東京に戻って、作家活動しながら、美大の非常勤になったり、作品と講師の二本立てですね。もともとここにはストレンジャー・ザン・パラダイスのポスターが貼ってあったんですが、それがボロボロになって。その時にうちにいた大野が、カメラにはまっていたので、彼の作品を飾ったわけです。当時、大野はうちのスタッフだったんですよ。
TT:スタッフだったんだ?
KK:ええ。ですからいつもそんなテンションで、音楽とか、かけていましたね。ドロップアウトした人間ばかりでしたけど、カッコよさをお互い張り合うんです。自分がはじめに見つけて、はじめに理解したって曲解する。それを相手に威嚇するように、1日に何回も「あっ、この音わかった!」とか言って。そんなスタッフばかりでしたね。