TT:金指さんとこんな風に話すのは、初めてかもしれませんね。
KK: そうですね。僕も先生の作品を見てリスペクトしていたんですよ。「先生はこんな仕事をしているんだ」って。そんな間接的な交流が薄く長くあって。でも、なんかその距離感が気持ちいいんですよ。途中から僕の仕事も見られているだなぁって感じがしていましたし。
TT:旧知の仲なんだけど、そこには、ことばを介さない。僕の中では心地いい空間を与えてくれていたらそれだけで気持ちいい。僕はコミュニケーションがちぐはぐなので、お店に入っても、どちらかと言えば、スタッフの方とあまり話さない方ですから。
KK: でも安心感のある不思議な関係。「ねじレノンののれん」のタイトルも、僕が想像していた以上の題字を仕上げて頂きましたし。本当に有り難うございます。
TT:関西の人って象徴的な意味でも肩を組んで、「一緒に頑張りましょう!」みたいな雰囲気があるけど、金指さんは個性的なスタッフと肩を組みながら、やっていたでしょう。そこは劇場みたいなもので、僕は観客だから。僕は僕で肩を組む関係は他にあるから、あそこに行けば素晴らしい肩組み一族がいるわけで、それが何だかとても嬉しい存在だった。その人たちが東京に店を出すとなれば、行っておかないとならないと使命感に駆られるわけです。
KK: そう言っていただけると嬉しいです。
TT:東京にはキラ星のごとくたくさんいろんな店がありますよね。そんな中で、金指さん個人の美意識、物語を貫いて、ビジネス的にもちゃんとやっていて、かっこいいと思う。恵比寿の店も、カウンターが向こうまで見えないじゃないってくらい長いバーがあって。東京に来て最初に恵比寿にあんなお店を作るなんて、この人は勝負の打ち方が面白いなぁっと思っていました。でもVIPルームを見せてもらった時はさすがに卒倒した。まるでデヴィット・リンチ(※1)の世界。レッドルームで小人が踊っていたよ(笑)。でも金指さんらしい気品が漂っている。
KK: アハハ、たしかにデヴィット・リンチもキーワードなんですよ(笑)。僕は飲食業でも着地点が一番大事で、そこがない限りはダメだって思うんです。たとえば“品”についても、自分たちが作るものの要素の一つとして大事にしておかないといけないことだと思うんです。なかなかうまく言えないんですけど。
TT: “品よく見せる”っていうのは、簡単なのかもしれない。品のいい物だけを集めればいいわけだから。それを、危ないところまで持って行って、品がいいっていうのは、ある意味チャレンジャー。品をここから先は奈落に落としていく、みたいな。
KK:「華麗なるギャツビー」(※2)の世界観に通じますね。その点で言えば新宿三越の「マダム・シルキュ」を開店するにあたり、青木むすびさんと仕事をすることになったのですが、「東京って遊園地のイメージだ」って伝えたんです。新宿はまるで巨大観覧車で、メディアが観覧車に人を乗せて、頂点に運んで、そして乗る人、降りる人がいる、と。新宿には、唐十郎とか寺山修司とかのイメージがあって、黒魔術とか日本の怨念とかを全部象徴したのが、サーカスをイメージした「マダム・シルキュ」(※3)となったんですね。
TT:「マダム・シルキュ」はねじれた階段があるかと思えば、天地逆転部屋の逆向きのシャンデリアテーブルが鎮座している。挙句の果てには火の輪をくぐって動物が飛び出してくる。まるで毒気のある大人流のサーカス。たしかに「新宿」を感じさせる。東京はあまりにも大き過ぎて一言で括れないけど、新宿は僕にとっても落ち着く街なんです。東京と神戸を行き来して感じるのは、東京ではこうやって話していても一旦メディアを経由しないと、人が動かない。でも、神戸だと、メディア通さなくて、個人でしゃべっていることがまだ、人を動かしていく。それが新宿にはまだありますよね。